
承認欲求とは、「他人から認められたい、自分を価値ある存在として認めたい」という欲求のことで、「尊敬・自尊の欲求」とも呼ばれています。承認欲求には「自己承認欲求」と「他者承認欲求」の2つのタイプがあります。
他人から認められたい、自分を価値ある存在として認めたいという承認欲求は、子供から大人まで誰もが持つ欲求です。ただし、他者承認欲求が強すぎる場合は、他者とのトラブルなど、様々な問題を引き起こします。
マズローの欲求5段階説
マズローの欲求5段階説とは、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した「人間の欲求は5段階に分かれ、1つ下の欲求が満たされると人は次の欲求を求めようとする」という理論です。
マズローとは
アメリカの心理学者アブラハム・マズローは、人間性心理学の生みの親といわれています。
人間性心理学とは、主体性・創造性・自己実現といった人間の肯定的側面を強調した心理学の潮流です。それまで支配的であった精神分析や行動主義との間に1960年代に生まれた第三の心理学とされています。
提唱者であるマズローは、精神分析を第一勢力、行動主義を第二勢力、人間性心理学を第三勢力と位置づけました。人間性心理学は人間性回復運動の支柱ともなりました。
マズローの提唱した人間性心理学で有名なのは、この欲求5段階説で自己実現理論とも呼ばれます。マズローは人間の欲求を次の5段階に分類しました。
- 生理的欲求
- 安全の欲求
- 社会的欲求
- 承認欲求
- 自己実現欲求
①第1段階〈生理的欲求〉
「生理的欲求」は、生きていくために必要な欲求のことで、マズローの欲求5段階説のうち第1段階にあたります。
人間としてというよりも、動物的な欲求ともいえる基本的・本能的な欲求で、食欲、排泄欲、睡眠欲などが当てはまるのです。これらが満たされなければ、人間として生命の維持が不可能、つまり生理的欲求は大変重要な欲求といえるでしょう。
②第2段階〈安全欲求〉
第2段階「安全欲求」とは、安全で安心な状況にいたいと思う欲求のことで、生理的欲求が満たされた人間は、次に自分の生命の安全を求めます。
たとえば「安全な環境にいたい」「病気や不慮の事故、戦争状態にない」、などに対するセーフティネットなどです。経済的に安定したい、健康な身体を保ちたいなども安全欲求に含まれます。
③第3段階〈社会的欲求〉
第3段階「社会的欲求」は、「愛情と所属の欲求」、「帰属の欲求」とも表現されるもので、友人や家庭、恋人から愛されたいという欲求、集団に入りたい、仲間や恋人が欲しいといった欲求のこと。
自分が会社から受け入れられている、社会に必要とされているという感覚を得たいと思う欲求です。この欲求が満たされないと、社会的不安を感じやすくなります。
④第4段階〈承認欲求〉
第4段階「承認欲求」は、他者から尊敬されたい、優秀だと認められたいという欲求で、名声や地位を求める出世欲や、有名になりたいという欲が当てはまります。
これまでの生理的欲求、安全欲求、社会的欲求の3つは外的部分を満たされたいという欲求でしたが、第4段階以降は内的な心を満たす欲求に変わるのです。
⑤第5段階〈自己実現欲求〉
第5段階「自己実現欲求」とは、自分の世界観や人生観に基づいて、あるべき自分になりたいと思う欲求のことで、自分の可能性や能力を引き上げ、自分の限界に挑戦して自己実現の欲求に突き動かされている状態です。
第1〜第3段階は低次の欲求、第4と第5段階は高次の欲求と呼ばれています。
これら5つの欲求全てを満たした「自己実現者」には、以下の15の特徴が見られます。
- 現実をより有効に知覚し、より快適な関係を保つ
- 自己、他者、自然に対する受容
- 自発性、素朴さ、自然さ
- 課題中心的
- プライバシーの欲求からの超越
- 文化と環境からの独立、能動的人間、自律性
- 認識が絶えず新鮮である
- 至高なものに触れる神秘的体験がある
- 共同社会感情
- 対人関係において心が広くて深い
- 民主主義的な性格構造
- 手段と目的、善悪の判断の区別
- 哲学的で悪意のないユーモアセンス
- 創造性
- 文化に組み込まれることに対する抵抗、文化の超越
第5段階の上
マズローは晩年、5段階の欲求階層の上に、さらにもう一つの段階があると発表しました。それが、自己超越 の段階です。 自己超越者 の特徴は
- 「在ること」 (Being) の世界について、よく知っている
- 「在ること」 (Being) のレベルにおいて生きている
- 統合された意識を持つ
- 落ち着いていて、瞑想的な認知をする
- 深い洞察を得た経験が、今までにある
- 他者の不幸に罪悪感を抱く
- 創造的である
- 謙虚である
- 聡明である
- 多視点的な思考ができる
- 外見は普通である (Very normal on the outside)
マズローによると、このレベルに達している人は人口の2%ほどであり、子供でこの段階に達することは不可能であると言っています。
承認欲求に存在する2つのレベル
承認欲求には低いレベルのものと高いレベルのものがあります。
- 他者承認:他者からの尊敬や評価を得るもので、低いレベル
- 自己承認:自己肯定感やスキルの向上、能力の獲得などで、高いレベル
①他者承認
低いレベルの他者承認は、他人から認められたいという承認です。他者からの尊敬や評価を得たり、多くの人から注目を浴びたり、富や名声、権利を持ったりすると欲求が満たされます。
たとえば同僚から、「あいつは仕事ができるやつだ」と思われたくて頑張る状況が他者承認です。ただし求めすぎると、自分を見失ったりトラブルを引き起こしたりしやすくなります。
②自己承認
高いレベルの自己承認は、「自分で自分自身のことを認めたい」という欲求です。「もっとうまくできるはずなのにどうしてできないのだろう」「より自分を好きになりたい」などを考えるときを、自己承認を求めている状況というのです。
そこでさらに技術を磨いたり、能力や自己肯定感を高めたりすると、自己承認を満たせます。
自己顕示欲との違い
自己顕示欲とは、人気者になりたい、自分の存在を周囲にアピールしたい、大勢の人から注目されたい欲求のこと。一方の承認欲求は他者から自分の存在価値を認められたいという欲求です。
自己顕示欲は、他人からの注目を得られれば自分の欲求が満たされるという自分中心的な要素を持ちますが、承認欲求は他者中心的な考えになっています。
アドラーの承認欲求
「嫌われる勇気」がベストセラーとなったアドラーですが、彼は、他者からの承認を求め、他者からの評価ばかりを気にしていると、最終的には他者の人生を生きることになる、として他者から承認を求めることを否定します。
他者の期待を満たすように生きることは、自分の人生を他人任せにすることに繋がることから、自分に嘘をつき、周囲の人々にも嘘をつき続けている生き方であり、他者から嫌われる勇気を持った時に初めて自分の生き方を貫くことができる(=自由になれる)と教えています。
アドラーは、他者承認欲求を否定しているだけで自己承認欲求は認めています。マズローも自己承認欲求まで高めていく必要があるということを言っており、アドラーが過激に言っているだけで、ある意味両者の目指すものは一緒と言えるでしょう。
アドラーとは
アルフレッド・アドラーは、オーストリア出身の精神科医、心理学者、社会理論家でジークムント・フロイトおよびカール・グスタフ・ユングと並んで現代のパーソナリティ理論や心理療法を確立した1人です。
アドラーは、もともとフロイトの主催するウィーン精神分析協会の中核メンバーで共同研究者でしたが、学説上の対立でフロイトと袂を分かち、独自の「個人心理学」を提唱、それがアドラー心理学となりました。この考え方は、自己啓発の元祖といわれるデール・カーネギーや、世界的な大ベストセラー『7つの習慣』の著者スティーブン・R・コヴィーなどにも影響を与えました。
問題行動5段階説
アドラーは、承認欲求にとらわれた人間が陥いる問題行動を、そこに隠された「目的」に注目し、5段階に分けています。
- 称賛の欲求
- 注目喚起
- 権力争い
- 復讐
- 無能の証明
称賛の欲求
親や先生に向けて「いい子」を演じる段階で、やる気や従順さをアピールする。
「これって問題?」と思われるかもしれませんが、目的はあくまでも「称賛されること」であり、称賛されないと不満を抱き、意欲を失ってしまいます。
「ほめてくれる人がいなければ、適切な行動をしない」というスタンスです。
注目喚起
第1段階で、ほめられなければどうするか。
次の段階は、「とにかく目立ってやろう」、「注目を集めてやろう」というものです。
子どもであれば、勉強や運動で優秀な成績を収めることが出来ない子供が、別の手段、例えば、学校のルールを破ったり、わざと忘れ物を繰り返したり、泣いたりと「できない子」を演じることで注目を集める段階です。
権力争い
ほめられることも、目立つこともできない場合、次は、誰にも従わず、挑発を繰り返し、戦いを挑むようになる段階に移行します。
親や教師に反抗する、非行に走る。そこまで至らなくても、勉強や習い事を無断でサボるといったことが多くなります。
復讐
権力争いに挑んだのに、勝利を得られず、承認欲求を満たせなかった。
次は、自分を認めてくれなかった人、愛してくれなかった人に復讐する段階に入ります。
この段階では、自傷行為や、引きこもりまでエスカレートしてしまいます。
無能の証明
最後の段階は、「これ以上期待しないでくれ」という態度を示す段階になります。
無力感から、人生に絶望し、自分のことを心底嫌いになり、自分にはなにも解決できないと信じ込むようになる。
完全に勇気をくじかれてしまった状態と言えます。
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