
防衛機制(defence mechanism=ディフェンス・メカニズム)とは、危機に直面した時に自分を守ろうとする無意識の心理メカニズムのことです。精神分析で有名なフロイトとその娘であるアンナ・フロイトによって確立された概念です。私たちは、危機的な状況や自分にとって不都合が多い状況、受け入れがたい苦痛にさらされた時には、精神的なストレスを感じます。
そのまま精神的なストレスを抱え続けていたら、精神崩壊を起こしかねません。それを避けようとして、ストレスや不安を軽減するための心理メカニズムが働きます。
防衛機制が働くことによって、私たちは精神的な安定を保つことができるのです。例えば、「どうしてもこれが欲しいのに、お金がないから買うことができない」という状況にさらされた場合、その事実をそのまま素直に受け入れることは難しいことがあります。そういう時には、「よく考えてみたら、実はそんなに欲しくなかったかも」とか「そんなに良い品物ではなかったから、買わなくて良かった」と自分に言い聞かせたり、別のもっと安いものを購入して、代用したりしますよね。そして、自分自身を納得させます。これが、防衛機制です。この防衛機制は、意識的に発動させるものではなく、無意識で発動することが特徴です。
フロイトのイド、超自我、自我
フロイトは「自我(エゴ)」「イド(エス)」「超自我(スーパーエゴ)」という構造論を展開しました。
「イド(エス)」は無意識的な、体の内部から湧き出てくる本能的な動物的欲求です。「イド(エス)」は快楽優先なのに対し「超自我」は道徳的な規律に従う無意識的な存在です。 「超自我」は親からの価値や規律を、まだ「自我」が確立する前に心の中に形作られます。「超自我」は「イド(エス)」との間にどちらが優先されるべきか葛藤が起こることがあります。この葛藤を調整しコントロールするのが「自我」です。 「自我」の一部は無意識に属していて、外の現実の世界を理解し調整することができます。つらい思いをした時に、無意識に防衛する機能(防衛機制)が働き、心を守ってくれることがあります。 「自我」は内部の調整も行っています。私たちの心の中は、そのまま社会に見せるには問題のあることがあります。「自我」が「イド(エス)」と「超自我」の仲裁役のように働いてバランスを取り、心を健康に保ってくれています。
防衛規制の4段階
ハーバード大学教授ジョージ・E・ヴァイラントは、防衛機制を人のこころの成熟度により4段階に分類されるとしています。
1 病理的防衛機制(pathological defences)
病理的防衛機制は、最も原始的な年齢が5歳以前の子どもに多く見られます。
病理的防衛機制は、自己愛的精神病的防衛機制とも言われています。
自らの理想的な側面を保護し、その側面の限界を否認するプロセスです。
病理的防衛機制は精神疾患においてもよく見られると言われています。
2 未熟な防衛機制(immature defences)
未熟な防衛機制は、成人に見られることもありますが、3歳〜15歳に多く見られる防衛機制です。
精神的な苦痛を和らげて苦痛を軽減させる高価がありますが、未熟な防衛機制が頻発してしまうと社会的には行きづらくなり人間関係はもちろんのこと、社会生活全体にも障害がもたらしてしまう場合が多くあります。
3 神経症的防衛機制(neurotic defences)
神経症的防衛機制は、多く認められる防衛機制です。
日常生活で支障のないような神経症的防衛機制は問題がないということもあり、多く認められるとも言うことが出来ます。
4 成熟した防衛機制(mature defences )
成熟した防衛機制は、病理的防衛機制、未熟な防衛機制、神経症的防衛機制の他の防衛機制を制御するためにも重要です。
年齢としては12歳以降で用いられる防衛機制です。
成熟した防衛機制は、意識して行われる防衛機制で社会に適応し豊かな人生を歩むために適しています。
ただ、意識することで自然と強化されてストップすると、病理的防衛機制、未熟な防衛機制、神経症的防衛機制に戻ってしまいますので注意が必要です。
防衛機制の種類
病理的防衛機制
転換(Conversion)
転換とは、抑圧された感覚や衝動、葛藤が、手足の痺れや声が出なくなる失声症などに身体異変によって表現されます。
わかりやすい言葉で説明すれば、我慢したくない事を我慢することが原因で、身体の異変が生じる事を言います。他にも視野が狭くなったり、不眠や過眠、過食や誤嚥困難、嘔吐、力が入らず歩けなくな失立失歩などがあります。
例えば「学校に行きたくないから熱がでる」などです。
否認(Denial)
否認とは、認めたくない現実や出来事、不安やストレスの原因などから目をそらすことで、その事実を事実ではないと否認し認めないことを言います。
視界に入っていても入っていない、知っていても知らないと、聞こえているが聞いていないといった感じでそのもの自体を否認して、そのことが起こっておらず、体験しなかったことにするのです。
抑圧は、その不快な出来事自体を無意識に追い払い不快な出来事を忘れさせる働きをします。しかし、否認は知覚した上で認めないとい言うところが特徴で「見て見ぬふりをする」といった状態のことです。
歪曲(Distortion)
歪曲とは、自分の考えているように、現実を再構築して認識します。
つまり、現実を歪曲して自分の都合の良いように解釈し認識するということです。幻覚や誇大妄想とも繋がりが強いと言えます。
分裂(Splitting)
分裂は、全てを善か悪かで判断してしまいます。悪が善を汚染してしまうのではないかという恐怖から善と悪を分裂させて善を守ろうとしているのです。
躁的防衛(Manic defence)
躁的防衛は、様々な苦痛から逃れるために、現実を否定し、自分の都合の良いように何でも解釈を変更する。「優越感(征服感)」「支配感」「軽蔑感」の三つの感情に特徴づけられています。
躁的防衛が活発化してしまうと、傷ついた対象への償いの気持ちや活動が滞るだけではなく、その対象が反抗してきたり逆襲してくるのではないかという考えが高まって、それが抑うつを深刻化させ、同時に否認のために躁的防衛にさらに頼るというような悪循環に陥ってしまいます。
未熟な防衛機制
行動化(Acting out)
行動化は、様々な衝動や葛藤が抑圧された際に、受け止めたり管理する訳ではなく実際に行動に移すことを言います。行動化の特徴として、この実際に行ってしまう行動がたいていの場合、反社会的な行動であるという事です。
大きく「物質嗜癖」と「行動嗜癖」に分けられます。
物質嗜癖とは、特定の物質の摂取に関する嗜癖で、ニコチン、カフェイン、薬,食べ物,シュガーなどの法的に認められたモノからアルコール、あへん、コカイン、覚醒剤、LSD、大麻、有機溶剤(シンナー、トルエン)などの違法的な薬物はもちろん向精神薬、睡眠薬、鎮痛剤,ライターのガスなども含まれます。
行動嗜癖とは、特定の行動に執着する嗜癖です。行動嗜癖は、衝動制御障害と呼ばれてもいます。行動嗜癖は具体的には、ギャンブル、摂食(過食・拒食)、性交、ポルノ、パソコン、ビデオゲーム、インターネット、エクササイズ、買い物、万引き(窃盗)、自傷行為、暴言、暴力などです。
ギャンブル依存症、アルコール依存症など、○○依存症と言われている名称の多くが行動化の具体例と言えます。
途絶・遮断(Blocking)
途絶・遮断は、意識障害がある訳ではないのに,感情を意識に上がらないように思考や行動の流れが突然停止し、行動や談話が中断することを言います。ただし、まもなく元に戻ります。
病気不安症(Illness Anxiety Disorder)
病気不安症は、身体の徴候や症状が起こりそれを誤った解釈して、病気にかかるかあるいはかかっているとの思い込んで、著しい苦痛や機能の障害を呈し、病気に関する不安に著しくとらわれ、正常を逸脱することを言います。
受動的攻撃行動(Passive-aggressive behavior)
受動的攻撃行動は、怒りや不満などのマイナスでネガティブな感情を相手にぶつけることではなく、消極的な態度や行動で相手を攻撃しようとすることを言います。
代表的な例えとしては「緘黙(かんもく)/無視」「サボタージュ」「抑うつ状態」があります。
- 黙ること/緘黙(かんもく)・無視
相手を無視する事で相手を困らせ攻撃する事 - サボること/サボタージュ
仕事などを意図的に遅らせたり、怠けたりすることで相手を困らせ攻撃する事 - 抑うつを示すこと/抑うつ状態
気分が沈んだ状態になることで相手を困らせ攻撃する事
受動的攻撃行動は意識的に行われることもありますが、無意識的に行われることもありえます。
受動的攻撃行動は、子どもが親から叱られた時に、黙って無視したり、無気力なままにイヤイヤお片付けをしたり、どんよりと落ち込んだようにしたりすることを思い浮かべればわかりやすいのではないでしょうか。
取り入れ・摂取( Introjection)
取り入れ・摂取は、友人や知人などが主に周囲の人の感情や観念、価値観などを自分自身のモノやコトのように感じて受け入れたりすることを言います。簡単に説明すれば「真似をする事で自分を守ろうとする」ことです。
取り入れることは主に、自分自身が他者に対して好ましいと感じたりしている部分であることが多く、発達段階においては道徳心や良心の形成に役立つ反面、現代では主体性のなさに繋がるなども考えられたり、自他の区別がつきにくい人間となる場合もあります。
また、周囲の人の成功を自分のことのように思い込んで満足してしまう”自我拡大”の恐れもあります。
理想化(idealization)
理想化は、困難な感情を処理できずに統合することが出来ないときに、その状況や対象を善と悪に分裂させていずれかとして捉えることを言います。
状況や対象を全てが良いモノとして捉える場合に原始的理想化(primitive idealization)、状況や対象を全てが悪いモノとして捉える場合に脱価値化(devaluation)が起こります。
児童や幼児期の子どもは、人間は良い面と悪い面があることを学ぶため、理想化は問題ありません。
また、成人であっても理想化しますが、それが問題な訳ではありません。問題となる理想化は未熟な理想を繰り返す事です。
投影性同一視(Projective identification)
投影性同一視は、自分の嫌な部分やダメだと思っている部分を他人に押し付けて自分が完璧であろうとすることを言います。他者を利用して、自分を良い人だと思うような行為です。
部下に対して「時間にルーズでだらしない!」と非難をする上司は自分が時間を守らずにだらしない場合などがこれにあたり、自分の嫌な部分を他人に押し付けているのです。
投影(Projection)
投影は、自分自身が持っている感情を、自分が持っているのではなく他者が持っていると捉えることを言います。
例えば、恋人の浮気が心配だと感じている人は、自分自身が浮気することを心配している場合です。浮気を考えたことがない人が恋人の浮気を心配するはずはありません。なぜなら浮気という考え自体が思い浮かばないからです。
退行(Regression)
退行は、赤ちゃん返りと言えばわかりやすいかもしれません。
赤ちゃん返りとは、一人目の子ども(長男・長女)は、赤ちゃん(妹や弟)が生まれて、自分が今までのように相手をしてもらえないからおねしょをしたり、怒りっぽくなったりする現象のことです。
大人の場合には、引きこもったり活動範囲が狭くなったりします。また、不安な時に他者の意見を鵜呑みにしたり依存的になったりするのも退行の一つです。感情のコントロールが難しく怒りっぽくなったり泣いたりすることもあります。
ただ、芸術的な発想や研究者などにみられる「創造的な退行」もあります。「創造的な退行」は現実的な事柄や理性的な事柄などから自身を解放することで、一般的ではない新しい発想や発見に導いたりする働きです。
身体化(Somatization)
身体化は、我慢などによって抑圧された衝動や葛藤などが、身体的な症状として表れることを言います。
様々な検査をしても異常はないが、頭痛、腹痛、吐き気がするなどの症状が表れるのです。
希望的観測(wishful thinking)
希望的観測は、根拠もないままに「こうあって欲しい」とか「ああいう風な感じだったらいいな」などという希望的な観測に影響されて判断してしまう事を言います。
例えば、ギャンブル依存症の恋人が結婚したら治るだろうと考えたりすることを言います。なお、願望している結果(ギャンブル依存症が治る)が願望している結果にならない(ギャンブル依存症が治らない)よりもありそうだと予測することを指します。
神経症的防衛機制
統制(Controlling)
統制は、完璧主義者の人が陥りやすく、周囲の人や環境などの出来事や対象を、過度に管理したり統制したり、しようとしたりすることを言います。
自分が統制しないと、自身の内面的な脆弱性から身を守ることが出来ないという”誤った信念”を持っている為です。
置き換え(Displacement)
置き換えは、本来の欲求とは別の対象に心のエネルギーを向け換えることを言います。
向け換える対象は、本来の欲求となる対象と関連している場合もありますが、他者から見た場合には無関係に見える場合もありわかりにくいものもあります。
解離(Dissociation)
解離は、自分が適応出来る能力を超えた苦痛を伴う出来事や経験から自分を守るために感情、思考、体験を切り離すことを言います。「意識、記憶、同一性、知覚、運動、感情などの通常は統合されている心的機能の統合制の喪失」と定義されています。
いじめられていることが辛いので、いじめられているのは自分ではなく他者であると考えて、自分の中に自分ではない他者を作り上げてその自分が作り会えた他者がいじめを受けていると考えるのです。
これは健康な解離と病的な解離があります。
健康な解離は「授業が楽しくないので白昼夢を見て授業の内容を思い出せない」などがこれに当たります。病的な解離は「世間で言われる多重人格と言われる”解離性同一性障害”」がこれに当たります。
外在化(Externalization)
外在化は、客観的に見ることが出来るようにすると言えばわかりやすいのかもしれません。もう少し違った言い方をすると”他人事化”です。
例えば、上司に叱られて涙が出てくることを紙などに書いて見ることが出来るようにすることを言います。叱られた際に「自分はダメだ」と思う場合が多くありますが、これを外在化することで「自分自身全てがダメなわけではなく昨日は映画を夜中まで見ていて睡眠不足だから集中できずミスをしてしまった。つまり、夜ふかしをした過去の自分が悪いわけ」というように問題を客観視、他人事化することが出来るのです。
知性化(Intellectualization)
知性化は、知識を用いることで客観的にその出来事などを理解しようとすることを言います。
「平均体重よりも少し重い方が健康に良い」などと、知識を用いて客観的に自分が平均体重よりも重いことを納得しようとする場合などがわかりやすいのではないでしょうか。
隔離・分離(Isolation)
隔離・分離は、受け入れがたい事実や感情に気づいているが意識しないことを言います。それを切り離すことで逃れようとします。
仕事などで嫌いな人に有効的な挨拶をするなどは隔離に当たりますが、このように社会に適応するために効果的な側面も持ち合わせています。
反動形成(Reaction formation)
反動形成は、受け入れられない感情や考えに対して、それとは逆の行動や態度をとることを言います。
嫌いな人に丁寧な態度で接したりする行為がこれに当たります。ただ、この行為は社会的に相応しくないことなどを社会的に望ましい方向に向かわせる行為ですので抵抗的な防衛ということが出来ます。
抑圧(Repression)
抑圧は、嫌なことを思い出さないように無視することを言います。これは意識的に行うわけではありません。心の奥底に無意識にしまい込んで意識に上がらないようにするのです。
自分が不快だと思う体験や考えを無意識的に押し込み、忘れさせるこころの働きです。
打ち消し(Undoing)
打ち消しは、不安や罪悪感、恥を生じさせた行為後に、やり直したり、打ち消したりするような類似の行為または、正反対である真逆の行動をとって無効にしようすることを言います。
社会的比較理論(Social comparison theory)
社会的比較理論は、自分の能力を把握するために周囲の人やモノなどと比較して、社会の中での自分の位置を確かめようとする事を言います。
これは誰もが無意識的に行っている、「他人と自分を比較している行為」と同じです。
ここで重要なのは比較対象の選び方です。
自分が自身がある場合は、自分より優れている人と比較する傾向にあり、これを「上方社会的比較(Upward social comparison)」と言います。
逆に自分に自身がない場合は、自分よりも劣っている人と比較する傾向にあり、これを「下方社会的比較(Downward social comparison)」と言います。
下方社会的比較を続けていると、成長を促すことをしなくなりますので、何でも悪い方に考えてします「ネガティブ思考」に陥る可能性が高くなります。
逃避(Withdrawal)
逃避は、実際に起こった様々な出来事から、心理的に逃れるだけではなく物理的にも逃れようとする行為を言います。逃避は、現実逃避、空想逃避、病気への逃避に分類されています。
成熟した防衛機制
受容(Acceptance)
受容は、今の状態や出来事を変化させず、抵抗せずに理解しようとする行為を言います。
その状態や出来事はネガティブな状態や不快である場合が多いのが特徴で、辛い状況をそのまま受け入れるということです。
愛他主義(Altruism)
愛他主義は、自分が不利益な立場や状態になったとしても他者に変わって助けをすることを言います。他者の利益を第一に考えて行動し、利他主義とも言われています。
先取り(Anticipation)
先取りは、将来を予想して、現実的な計画を立てることを言います。つまり、悪い状況になる前に保険をかけるということです。
禁欲主義(Asceticism)
禁欲主義は、好ましくない結果を生み出す様々な欲望に気持ちが囚われないように、その欲望に関するモノやコトに近づかないようにすることを言います。
食欲や性欲など本能的な欲望はもちろん、アルコールやギャンブルなどの欲望も含まれます。
セルフコントロール(Self control)
セルフコントロールは、自分の感情や思考、行動を自分の意思でコントロールすることを言います。
自制心や意志力とも呼ばれています。
レジリエンス(resilience)
レジリエンスは、ストレスなどで自身の気持ちに歪みが生じた際に、その歪みを元に戻そうとすることを言います。
レジリエンスは、性格などの個性という訳ではありません。誰もが学習することで発展させることが可能であるとされています。
歪みを元に戻そうとするレジリエンスが高いという事は、挫折を乗り越えることが出来るという事に直結します。
レジリエンスは「自己認識」「自制心」「精神的敏速性」「楽観性」「自己効力感」「つながり」「生物学的要素(遺伝子)」「ポジティブな社会制度」が構成要素とされています。
ユーモア(Humor)
ユーモアは、「笑う」とほぼ同義語です。
しかし、ただ単に笑うという意味ではなく、センスと思いやりがある笑いになります。つまり、男性だけが楽しいセクハラ発言で起こる笑いはユーモアではありません。
ユーモアは最も高いレベルの防衛機制だとフロイトは言っています。
同一視(Identification)
同一視は、自分が理想とする人や尊敬する人を真似て欲求を満たすことを言います。
本を読み著者の思想が自分の思想にするなども含まれます。
昇華(Sublimation)
昇華は、社会的に認められない反社会的な欲求や衝動を、社会的に望ましいとされる別の形で表現して自己実現を図ろうとすることを言います。
不良がボクサーになったりするのがわかりやすいのではないでしょうか。
抑制(Suppression)
抑制は、意識的に不安を感じるような出来事などを考えないようにしたり、願いが叶わないと思われる事などについて、考えるのを避けることを言います。
意識的に行う点で「抑圧(Repression)/神経症的防衛」と違います。
防衛機制との付き合い方
誰しもが防衛機制を使いながら、周囲の人や社会とうまく折り合いをつけて生きています。また、そうすることで自分のプライドや体裁を保ったりもしています。ですから柔軟性のある防衛機制なら、社会生活を送る上では、健全な心理作用です。
しかしながら、防衛機制は「自分の姿を直視しないようにするこころの働き」という一時的な安全装置です。多くは無意識下で働くので、コントロールが困難だったり、それが働いているという機能の有無の判断もできないことがあります。
また、疲れたとき、精神的に余裕がないときに、真の自分と向き合うことができない時など、防衛機制が意識、無意識に作用します。
自分の状態や、周囲との兼ね合いの中で、防衛機制による一時的なごまかしが、こころの不安や緊張を解消するならば、それは生きていく上で必要なものとなりますが、その使用があまりに頻繁であったり、ずっと使い続けていたりすると、不適応な使用となります。
真の自分の姿を、潜在意識という無意識の倉庫に閉じ込め、何もないもののように扱えば、結果的には、病的な症状や性格的な偏り、あるいは特殊な人格構造となって、日常生活に様々な支障を起こすようになるのです。
支障をきたさないためには、防衛機制を常に意識して、柔軟に防衛機制と付き合いつつ本来の自分に向き合うことが必要です。ストレスフルな現代社会を臨機応変に生き抜いていくには、必要な道具ですが、使い過ぎには、要注意です。
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