
自殺とは、端的に表現すると「自分の命を自ら奪うこと」と定義されますが、その背景には、経済・生活問題、健康問題、家族問題など様々な要因と、その人の人格傾向、家族の状況、死生観などが複雑に関係しています。
自殺予防学を確立した世界的に著名な心理学者であり、自殺予防センターの E.S.シュナイドマンは、自殺の一般的な特徴を10 項目にまとめています。
① 自殺の共通の動機は、耐え難い心の痛み
② 自殺における共通の悩みは、心の願いのかなわぬこと
③ 自殺の共通の目的は、直面する難問を解決すること
④ 自殺の目標は意識を失うこと
⑤ 自殺に共通してみられる感情は、望みも、救いもないという思い
⑥ 自殺者に共通して見られる心は、ゆれる心
⑦ 自殺者にみられる認識の特徴は、視野の狭 窄
⑧ 自殺者にみられる特徴的な対人行為は、死ぬことの予告である
⑨ 自殺者によくみられる行為は「逃亡」
⑩ 自殺においても、過去の難問に直面した時の適応パターンが現われる
(「自殺とは何か」E.S.シュナイドマン)
自殺のサイン
次のようなサインを数多く認める場合は、自殺の危険が迫っています。早い段階で専門家に受診させてください。(自殺予防の10か条:厚生労働省「職場における自殺の予防と対応」より)
- うつ病の症状に気をつける
- 原因不明の身体の不調が長引く
- 酒量が増す
- 安全や健康が保てない
- 仕事の負担が急に増える、大きな失敗をする、職を失う
- 職場や家庭でサポートが得られない
- 本人にとって価値あるものを失う
- 重症の身体の病気にかかる
- 自殺を口にする
- 自殺未遂に及ぶ
死にたい気持ちへの対応
自殺の危険が高いと感じる人を前にしたら、どのように対応すべきでしょうか。
カナダの自殺予防のグループがこれを「TALKの原則」としてまとめています。これはTell, Ask, Listen, Keep safeの頭字語でです。
あなたは、「ゲートキーパー」という言葉をご存じでしょうか。直訳すると「門番」という意味ですが、自殺を防ぐ役割を果たす人のことをそう呼びます。私たち一人ひとりがゲートキーパーになるために、各自治体などで実施されている「ゲートキーパー研修」では、その基本的な対応法としてこの「TALKの原則」が教えられています。
- Tell はっきり言葉に出して「あなたのことを心配している」と伝える。
- Ask 死にたいと思っているかどうか、率直に尋ねる。
- Listen 相手の絶望的な気持ちを徹底的に傾聴する。絶望的な気持ちを一生懸命受け止めて聞き役に回る。
- Keep safe 危ないと思ったら、まず本人の安全を確保し周囲の人の協力を得て、適切な対処をする。
自殺未遂者に対する対応
自殺未遂は自殺リスクを高めます。ですので、自殺未遂者に対する適切な対応とケアは自殺防止にとって重要な位置づけとなります。そのために以下の3つがポイントとして挙げられます。
- 医療機関等において心身両面のケア
- 自殺未遂者の地域生活を支えるために公的機関・民間団体との連携
- 自殺未遂者の親族をケアし、本人を支援できるように働きかける
医療機関は主には精神科や心療内科となるでしょう。特に自殺にはうつ病などの精神疾患が絡んでくることが多いですので。また、身体的ダメージが大きい時には、内科や外科などでの身体治療がもちろん優先されます。
自傷行為
自傷行為のうち、痛みや体の表面の損傷を生じさせるものの、死に至ることは意図していないものを非自殺的自傷行為と言います。
手首をカミソリで切るなど、自傷に用いられる方法は自殺企図でのそれと重なる部分もありますが、非自殺的な自傷行為は、死に至ることを意図していないことから、自殺企図とは異なります。患者が自殺するつもりはないと具体的に述べることもよくあります。別のケースでは、例えばタバコの火で自分の体を焼くなど、明らかに死に至るはずのない行為を繰り返し行う場合には、実際に死ぬつもりはないと医師は考えます。
しかし、患者が初めて自傷行為を行った際には、実際に死ぬ意思がなかったかどうかは明らかでない場合もあります。例えば、抗菌薬やビタミン剤を過剰に摂取することで自殺できると考えて大量摂取し、後になって無害であったことに気づくケースもあります。
自傷行為によって死に至ることがないとしても、自傷行為を続ける人は長期的には自殺を試みたり、遂げたりする可能性が高くなります。そのため、医師や家族は非自殺的な自傷行為を軽く片付けてはいけません。
非自殺的な自傷行為の最もよくある例としては、以下のものがあります。
- ナイフやカミソリの刃、針などの鋭い物で皮膚を切ったり刺したりする
- 皮膚を焼く(典型的にはタバコで)
非自殺的な自傷行為は、青年期の初期に始まる傾向があります。他の精神障害、特に境界性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害、摂食障害、物質乱用がある人では、より多くみられます。非自殺的な自傷行為は、男子より女子で多くみられるものの、その差はごくわずかである一方、自殺行動は女子の方がはるかに多くみられます。患者の大半は年齢が上がるにつれて自傷行為をやめていきます。
1回で何度も自傷を繰り返す場合も多く、その場合は同じ部位に複数の切り傷や熱傷(やけど)がみられます。通常、患者は前腕や太ももの前側など、見えやすく手の届きやすい部位を選びます。また、一般的には自傷行為を何度も繰り返すため、以前の行為による広範な傷あとが残ります。患者は自傷行為に関する考えにしばしばとらわれています。
人が自分の体を傷つける理由は明らかではありませんが、自傷行為は以下のものである場合があります。
- 緊張感や負の感情を和らげる方法
- 対人関係の悩みを解消する方法
- 認めた過ちに対して自らに課した罰
- 助けを求める訴え
自傷行為を問題と考えていない人もおり、その場合は、カウンセリングを求めたり、受け入れたりしない傾向があります。
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